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#001 坪田信義名人 『野球とは「無我になれる」こと』P1





「仕事は、むっちゃ厳しかったですね」坪田氏(以下、名人)


編集長

グローブ作り60年、お疲れ様でした。

名人

ほんまにねぇ、60年も1つの仕事、1つの企業で勤められたというのは、ものすごい幸運やったと思うんですよ。 まぁ、多少は私の努力もあったやろうけど、やはり会社が60年も勤めさせてくれたということに対してものすごく感謝していますね。いろいろな体験はさせてもらいましたね、海外で。キャンプだけじゃなくツアー言うて、お得意さんまわりですね。 1ヶ月くらいずっと各地を車でまわったりとか。色々思い出とか、うちの販売員が経験できない体験はいっぱいさせてもらいましたからね。厳しかったですよ。仕事は、むっちゃ厳しかったですね。

編集長

名人が引退をされて2年程経ちますが、どんな思いで今野球を見てらっしゃいますか?

名人

やはり1番気になるのは、私が現役で働いていた時に接触のあった選手のことが、ものすごく気になりますね。


今だから語れる、名人のグラブ作り秘話


編集長

プロ野球もセ・パが分かれて60年。この60年間を振り返って、野球の変遷を捉えて、今の野球、昔の野球がどう変わってきたかという見方はありますか?

名人

まず、最近は筋トレがものすごく盛んになったんですよね。非常にパワーがつきました。昔は筋トレをやったらあかんかったらしいですね、いらん筋肉がついて。特にピッチャーはそうでしたよね。 ところが、今は筋トレが全盛ですからね。そやから非常にパワーがついたと言えますね。 選手にパワーがついて、打球が速くなったということですね。 昔はグラブが重かったので、打球に対応できなくなってくるんです。最後の動きに対応できなくなってくるから、だんだん軽量化になってきた訳です。 でも、逆に重い方がええという選手もいてはりました。 例えば、高田さんが、5年間サードをやりましたね、外野からコンバートされて。その時のグラブってものすごい重たかったんですよ。最初に試作品で作ったやつで結局5年間サードを守ったんですけどね。まぁいろいろ、作っていったんですけど、なかなか高田さんがイメージしているようなグラブに出来上がらなかったんです。ほんで私がいっぺん、あの時は後楽園球場ですか、そこが人工芝になって打球が速くなるということで、高田さんに軽いグラブ作って持って行ったんですよ。 「これ、あかん」って、言われましたね。 「打球に負ける」言うて。 で、また元に戻した訳ですね。 ピッチャーでも、例えば、鈴木啓示さんは最低が850グラム、重量、最低がです。重たければ重たい方がええ言うんですよ。その時東尾さんの上限は540グラムに設定していたんです。そやから、300グラム違う訳ですよね。 普通、800グラム超えるグラブいうたら作れないんです。どうしても、革は剥かないと縫製できないし、縫製はできても返せないんですよ。だからできる範囲内に剥いて、親指と小指の中に2枚フェルトが入っているので、その中に、鉛を板状にしてサンドウィッチにすることで重量を出したんですよ。 鈴木啓示さんの投球スタイルといえば、反動を利用しての投球フォームでしたからね。逆に東尾さんは、緻密なコントロールでコーナーを突くので重たいと負担になるんです、左が。



編集長

グラブを選ぶポイントで、重さ以外ではどのような事を言われたことがありますか?

名人

そうですね、手を入れた時の「遊び」ですね。遊びを気にする選手がいるんですよ。 特に、ピッチャーはもちろん、内野手もそうですけどピッチャーの方が多いですね。 例えば、横から投げる人がいますね、サイドスローというのですね。 小林繁さん、高津さんとかね。 だいたい横から投げる人は、ちょっと変速モーションですよね。 この部分(手の甲とグラブの隙間)がグラついたら投球が、ちょっとお留守がちになるらしいですね。 だから、指だけじゃなく、グラつかないように一体化させて密着させるんです。 スポンジを三角に切って、土手の部分へ入れてね。 あと、江夏さんと星野仙さんが印象に残っています。 二人ともフォークボールを投げていました。江夏さんは「握りが見えんように、掌の下の部分を10ミリ下に出してほしい」というリクエストがありました。一方、星野さんは、あるゲームで解説者から「握りでフォークがわかる」と指摘されたことがあったんです。それを見て、星野さんに「深くしましょうか?」って聞いたことがあるんです。もともと、星野さんは「ピッチャーは5番目の内野手だ」と言って、ショート用のグラブを使ってましたから。そしたら「必要ない、わかってもいい」という答えが返ってきたんです。つまり「打つなら打ってみろ」ということでしょうね。


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